この記事が答える質問
- AI予知保全の導入にはどのようなデータが必要ですか?
- 故障履歴がなくても予知保全を始められますか?
- 予知保全プロジェクトはどのような順序で進みますか?
- センサーを新たに設置する必要がありますか?
設備が止まってから直すのではなく、止まる前に気づこうというのが予知保全です。考え方は単純ですが、いざ始めようとすると「何から準備すべきか」で行き詰まります。本稿はその問いへの答えです。
まず、すべての設備に必要なわけではありません
予知保全にはコストがかかります。すべての設備に適用するのは効率的ではありません。次の三条件のうち二つ以上に該当する設備から検討するのが適切です。
- 止まると損失が大きい設備 — ライン全体が停止する、バッチを丸ごと廃棄することになる場合
- 故障が繰り返される設備 — 同じ箇所が周期的に問題を起こす場合
- 点検コストが大きい設備 — 分解点検に時間と人手を要する場合
逆に、故障しても即座に交換でき影響が局所的な設備は優先度が下がります。
どのようなデータが必要か
1. 設備信号
最も基本となるのは、設備自体が出す信号です。
| 信号 | 主に捉えられるもの | 推奨サンプリング |
|---|---|---|
| 振動 | ベアリング摩耗、軸芯のずれ、アンバランス | 高周波(kHz単位)または周期的スナップショット |
| 電流 | 負荷変動、モーター異常 | 秒単位 |
| 温度 | 過熱、冷却不良 | 秒〜分単位 |
| 圧力・流量 | 漏れ、詰まり | 秒単位 |
振動は情報量が最も多い一方、データサイズも大きくなります。すべての設備に高周波振動センサーを取り付けるより、すでに収集されている電流や温度から始めるほうが現実的です。
2. 運転条件
同じ振動値でも負荷が違えば意味が変わります。生産量、稼働/停止状態、製品の種類、速度といった運転条件が併せてあって初めて、信号を解釈できます。
この部分が欠けているケースは想像以上に多くあります。設備信号はあるのに「そのとき何をどれだけ作っていたか」がなければ、正常と異常を区別することは困難です。
3. 故障・整備履歴
いつ何が故障し、どのような整備を行ったかの記録です。モデルが「このパターンの後に故障が起きた」と学習するには不可欠です。
現場で最も不足しがちなのがこの履歴です。整備日誌が紙にしか残っていない、あるいは「異常あり点検実施」程度しか記載されていないことがよくあります。
故障履歴がなければできないのか
できます。アプローチが変わるだけです。
故障履歴が十分にある場合 — 教師あり学習で「故障N日前」を予測するモデルを構築できます。ただし同種の故障が最低でも数十件はないと、意味のある学習にはなりません。
故障履歴が不足している場合 — 正常状態のみを学習する異常検知(Anomaly Detection)から始めます。「いつもと違う」を検知する方式のため故障事例は不要です。その代わり、検知された異常が実際の故障につながるかは運用しながら蓄積していきます。
実際のプロジェクトでは後者から始めることのほうが多く、運用の中で履歴が蓄積された時点で前者へ移行します。
どれだけ集めるべきか
決まった答えはありませんが、判断基準はあります。
設備が経験する変動を一巡したか。 季節によって温度が変わる設備であれば、最低でも夏と冬が含まれている必要があります。製品の種類によって条件が変わるなら、主要な品目がすべて入っている必要があります。
一般的には3〜6か月分のデータで一次モデルを構築し、運用しながら補強していく方式を取ります。完璧なデータが揃うのを待っていては、始めること自体ができません。
進め方
第1段階 — 対象の選定とデータ点検 どの設備を対象とするかを決め、現在どのようなデータが実際に保存されているかを確認します。この段階で「あると思っていたのにない」データがよく見つかります。
第2段階 — 収集体制の構築 不足している信号を補い、設備ごとに異なる形式を標準化して一か所に集約します。運転条件と時刻を揃えることが重要です。タイムスタンプがずれていれば、以降の分析がすべて不安定になります。
第3段階 — モデル構築 異常検知または故障予測のモデルを構築します。
第4段階 — 現場検証 実際に動かし、誤検知(false alarm)の割合を確認します。ここが最も重要です。アラートが頻繁すぎれば現場では無視されるようになり、そうなればシステムはあってもなくても同じです。
第5段階 — 運用と再学習 設備の状態も工程条件も変わり続けます。モデルを一度作って終わりにすれば、時間の経過とともに精度が落ちます。再学習の周期を定めておく必要があります。
見落としがちなこと
誤検知のコストを勘定に入れない。 見逃した故障だけを見て誤検知を無視すると、現場がシステムを信頼しなくなります。両方を併せて見たうえで、運用可能な点を探す必要があります。
アラートの後の手順がない。 「異常を検知しました」という通知が出たとき、誰が何をするかが決まっていなければ何も起きません。システムより先にこの手順を定めるほうが効果的です。
一度に全設備へ適用する。 一つの設備で検証したうえで広げるほうが安全です。設備ごとに条件が異なり、モデルがそのまま移らないことが多いためです。
インピックスは、設備データの収集・標準化(B²LAB)からAIモデル構築(A²)、運用の自動化までを一つのプラットフォーム(A²LAB)で支援します。どの設備から始めるべきか判断がつかない場合は、現在のデータ状態を一緒に点検するところから始められます。