インサイト

射出成形の難検出不良、AIビジョン検査は何が違うのか

この記事が答える質問

  • ルールベースのビジョンカメラが見逃す不良はなぜ生じますか?
  • 不良サンプルが少なくてもAIビジョン検査を導入できますか?
  • AI検査をライン速度を落とさずに適用できますか?
  • 検査精度はどう評価すべきですか?

射出成形において検査は古くからのテーマです。ビジョンカメラはすでに多くのラインに入っています。それでも最終検査を人がもう一度行っている現場が少なくありません。なぜでしょうか。

ルールベースが弱い箇所

従来のビジョン検査はルールで動きます。「この領域の明るさが基準値以下なら不良」「この大きさ以上の点があれば不良」といった具合です。

この方式は明確な不良にはよく機能します。問題は曖昧な不良です。

  • 照明の角度によって見えたり見えなかったりする微細なキズ
  • 正常範囲の境界にある色・光沢の偏差
  • 形状は正常なのに表面の質感が異なる場合
  • 位置が毎回変わる異物

こうした欠陥にルールを合わせようとするとジレンマに陥ります。基準を厳しくすれば良品まで弾かれて過検出が増え、緩くすれば本当の不良が流出します。結局は人が再検査することになり、検査要員がボトルネックになります。

ディープラーニングによる検査の扱い方

ディープラーニング検査では、ルールを人が書きません。画像を見て「正常とはこういう姿だ」をモデルが自ら学習します。

照明が少し変わったり角度が変わったりしても、その変動が学習データに含まれていればモデルは正常範囲として認識します。ルールでは一つひとつ例外処理が必要だった部分です。

良品画像のみで学習する方法

現場で最もよくいただく質問が「不良の写真があまりないのですが可能ですか」というものです。

可能です。**異常検知(Anomaly Detection)**方式は良品画像のみで学習します。モデルが正常の分布を習得したうえで、その分布から外れるものを異常と判定します。

この方式の利点は明確です。

  • 不良サンプルを集めるために数か月待つ必要がない
  • 初めて見る種類の不良も「正常ではない」として捉えられる
  • 良品比率が高い安定したラインほど学習データが豊富になる

限界もあります。どの種類の不良かを分類してはくれません。不良の種類別の統計が必要であれば、後段に分類モデルを追加する必要があります。

ライン速度を落とさないために

AI検査は遅いのではないかという懸念をよくいただきます。実際、重いモデルをサーバーへ送って推論すれば、往復の遅延によってライン速度に合わせることは難しくなります。

解決策はエッジ推論です。軽量化したモデルをカメラの隣のエッジデバイスに載せ、現場で直ちに判定します。ネットワークを経由しないため遅延が減り、画像を外部へ出さないのでセキュリティ上の負担も小さくなります。

モデルの軽量化は精度とのトレードオフであり、際限なく小さくできるわけではありません。目標とするタクトタイムを先に定め、その範囲に収まる中で最も精度の高いモデルを選ぶ、という順序で進めます。

検出だけでは足りません

ここまでが「不良をうまく見つける」話です。ところが検査をいくら精密にしても、不良率そのものは下がりません。 作られた不良を取り除いているだけです。

不良率を下げるには、不良が出た条件を見る必要があります。射出圧力、金型温度、冷却時間、材料ロット、季節による湿度。これらの変数と実際の検査結果を結び付けて分析すれば、どの組み合わせで不良が増えるかを確認できます。

検査データが工程データとつながっていて初めて可能になることです。検査機は検査機、設備は設備で別々にデータを蓄積していては、この分析はできません。ビジョン検査を導入する際にデータ連携の構造を併せて整えるべき理由がここにあります。

精度の評価方法

「精度99%」という表現は、思われているほど意味を持ちません。不良率1%のラインでは、すべて正常と答えても精度は99%になります。

実際に見るべきは次の二つです。

  • 見逃し(流出した不良) — 不良が顧客に届いた場合のコスト
  • 過検出(良品を不良と判定) — 問題のない製品を廃棄するコスト

この二つはおおむねトレードオフの関係にあります。どちらをより避けるべきかは製品と顧客の要求によって異なります。検査のしきい値はこの判断の上に定めるべきもので、技術というより経営判断に近いものです。

導入の順序

  1. 現在の検査データの確認 — 今どのような画像がどれだけ保存されているかを見ます
  2. 一品目・一ラインでの検証 — 範囲を絞って始めます
  3. 過検出・見逃しの基準合意 — 現場と品質部門が一緒に定めます
  4. エッジ適用と速度検証 — タクトタイムに収まるかを確認します
  5. 工程データとの連携 — 検査結果を工程変数と結び付けます
  6. 他ラインへの展開 — ライン別の再学習手順を含めます

インピックスのV²はディープラーニングによるビジョン検査ソリューションで、良品画像による異常検知とエッジ軽量モデルに対応しています。品質予測と工程最適化(XGBoost・遺伝的アルゴリズム)を併せて提供し、検出から予防までつながるよう設計しています。

一覧へ戻るお問い合わせ